技能実習生から特定技能へ:スリランカ人が語る日本の建設業界での10年

日本の建設業界において、外国人材はもはや現場を支える欠かせないパートナーとなりました。しかし、技能実習生として来日した後、どのようにキャリアを積み、長く日本で活躍し続けることができるのでしょうか。今回は、スリランカから来日して10年、ひたむきに技術を磨き、技能実習から特定技能へとステップアップを果たした一人の技術者にスポットを当てます。

彼が語る「信頼を勝ち取るまでの道のり」や「特定技能への移行による待遇の変化」、そして「外国人の視点から見た働きやすい職場環境」は、深刻な人材不足に悩む建設企業にとって極めて重要な示唆に富んでいます。現場でのリアルな体験談を通じて、外国人材の定着支援やキャリア形成のあり方について深く掘り下げていきます。国境を越えた絆と技術の継承、その成功事例をぜひご覧ください。

1. スリランカから日本へ渡り10年、建設現場で信頼を勝ち取るまでの軌跡

インド洋に浮かぶ常夏の島国、スリランカから遠く離れた日本へ降り立ったあの日。肌を刺すような冬の寒さと、全く分からない言葉の響きに戸惑いながらも、私の建設業界でのキャリアはスタートしました。当初は技能実習生として来日し、右も左も分からない状態で現場に飛び込みましたが、そこには言葉の壁以上に厳しい「職人の世界」が待っていました。

日本の建設現場は、安全管理や施工品質に対して世界でも類を見ないほど厳格です。道具の名前一つ覚えるのにも苦労し、日本人特有の「阿吽の呼吸」や「空気を読む」文化に馴染むまでは、失敗の連続でした。しかし、スリランカ人は元来、真面目で手先が器用な国民性を持っています。私は「日本で最高の技術を盗んで帰る」という強い意志を持ち続け、先輩職人の手元を見つめ、メモを取り、現場で飛び交う専門用語を必死に覚えました。

転機が訪れたのは、実習期間を終え、特定技能1号の在留資格を取得した頃です。単なる作業員ではなく、即戦力として認められた瞬間でした。それまでの下積み期間に培った鉄筋施工や型枠工事のスキルは、現場監督や元請け会社の担当者からも高く評価されるようになりました。特に、現場での挨拶や整理整頓といった基本動作を徹底することで、日本人スタッフとの間に言葉を超えた信頼関係が芽生え始めました。

現在では、新しく入ってきた技能実習生への指導や、日本語が苦手な同僚と日本人職長との通訳のような役割も任されています。10年という歳月は、異国の若者を一人前の建設マンへと成長させました。日本の建設現場で信頼を勝ち取るために必要なのは、高度な技術だけではありません。日々の誠実な勤務態度と、仲間と共に安全に工事を完了させようとするチームワークへの貢献こそが、国籍を超えて評価される最大のポイントなのです。

2. 技能実習と特定技能の違いとは?移行によって変化した待遇と仕事の責任

日本の建設現場で長年経験を積んできたスリランカ人労働者にとって、在留資格が「技能実習」から「特定技能」へと切り替わることは、単なる書類上の手続き以上の大きな意味を持っています。建設業界におけるこれら二つの制度は、その設立目的から実際の現場での扱いまで明確な違いがあり、キャリアアップを目指す外国人材にとって重要な転換点となります。ここでは、実際に現場で働くスリランカ人の視点に基づき、移行によって具体的に何が変わったのか、待遇面と仕事の責任という観点から深掘りします。

制度の目的と現場での扱いの変化

最大の違いは、制度の根本的な目的にあります。技能実習制度は、あくまで開発途上国への「技術移転」を目的とした国際貢献の一環であり、建前上は「労働」ではなく「実習」です。そのため、現場では「教えてもらう立場」として扱われ、単純作業の繰り返しに留まるケースも少なくありませんでした。

一方、特定技能は深刻な人手不足に対応するための制度であり、即戦力となる「労働者」として受け入れられます。特定技能1号へ移行したことで、建設現場では一人のプロフェッショナルとして認識されるようになります。スリランカ人の彼らにとって、これは「研修生」という枠組みから外れ、日本人職人と対等な立場で技術を競い合える環境になったことを意味します。

待遇面の向上と「同一労働同一賃金」

特定技能への移行に伴い、最も顕著に変化するのが給与や待遇です。技能実習生時代は最低賃金に近い設定であることも珍しくありませんでしたが、特定技能では日本人と同等以上の報酬額が義務付けられています。

建設業界では、経験年数や保有資格(玉掛け、クレーン、建設機械施工管理技士など)が給与に直結します。特定技能へ移行できるレベルの人材は、すでに3年から5年の実務経験と日本語能力を有しているため、それに見合った給与アップが実現します。実際に、基本給の増額だけでなく、賞与(ボーナス)の支給対象になったり、固定給制へ移行したりすることで、生活の安定感が格段に増したという声は多く聞かれます。スリランカへの仕送り額を増やせるだけでなく、日本での生活レベルを向上させることができる点は大きなモチベーションとなっています。

仕事の責任とキャリアパスの拡大

待遇が良くなれば、当然ながら求められる責任も重くなります。技能実習生時代は、職長の指示通りに動くことが主な役割でしたが、特定技能に移行してからは、自らが図面を読み解き、作業工程を判断する場面が増えてきます。

特に建設分野(土木、建築、ライフライン・設備など)では、特定技能外国人が新人の技能実習生(後輩のスリランカ人など)の指導係を任されるケースが一般的です。現場監督と作業員の間に入って通訳兼リーダーのような役割を果たすこともあり、現場の安全管理や品質管理の一翼を担うことになります。

さらに、建設分野においては「特定技能2号」への道も開かれています。これは熟練した技能を要する業務に従事できる在留資格で、事実上の在留期限がなくなり、家族の帯同も可能になります。特定技能1号での経験は、将来的に日本で永住権を見据えたキャリアを築くための重要なステップとなっているのです。

転職の自由がもたらす精神的な変化

忘れてはならないのが「転職の自由」です。技能実習では原則として職場を変えることができませんでしたが、特定技能では同一業種内であれば転職が可能です。これは雇用される側にとって非常に大きな安心材料となります。「もし不当な扱いを受ければ、他の会社に移ることができる」という権利を持っていることで、雇用主側もより丁寧な労務管理を行うようになり、結果として職場環境の改善につながっています。

このように、技能実習から特定技能への移行は、単なるビザの更新ではなく、スリランカ人建設労働者が「守られる対象」から「現場を支える主力」へと進化するプロセスそのものと言えるでしょう。

3. 言葉の壁や文化の違いを乗り越え、高度な建設技術を習得した方法

スリランカから日本へ降り立った当初、建設現場で最初に直面したのは、やはり言葉の壁でした。日本へ来る前に基本的な日本語教育は受けていましたが、実際の現場で飛び交う専門用語や職人特有の言い回しは、教科書には載っていないものばかりです。「ネコ(一輪車)を持ってこい」「バタ角を用意して」といった指示が理解できず、最初は悔しい思いを何度もしました。

この壁を乗り越えるために徹底したのは、常にメモ帳とペンを携帯し、分からない単語があればその場でカタカナで書き留めることでした。そして、休憩時間や業務終了後に日本人の親方や先輩に意味を尋ね、その日のうちに復習を繰り返しました。建設業において、指示の聞き間違いは重大な事故に直結します。そのため、「分かったふりをしない」というルールを自分の中で決め、理解できるまで何度でも確認する姿勢を貫きました。

技術習得の面では、日本の職人文化である「技術は見て盗む」という考え方に順応する必要がありました。手取り足取り教えてもらうのを待つのではなく、先輩の動きを観察し、なぜその手順で作業するのかを考えました。しかし、見るだけでは限界があります。そこで、作業の合間を見計らって積極的に質問を投げかけました。「もっと効率よく鉄筋を結束するにはどうすればいいですか?」と具体的に聞くことで、職人さんたちも熱心にコツを教えてくれるようになり、現場での信頼関係が深まっていきました。

さらに、特定技能へのステップアップを見据え、公的な資格取得にも挑戦しました。玉掛け技能講習や足場組立の特別教育など、現場で必要な資格を一つずつ取得していきました。日本語での学科試験は大きなハードルでしたが、ふりがな付きのテキストを活用し、現場で実物を触りながら覚えることで知識を定着させました。

また、日本の建設現場特有の安全文化、特に「指差呼称」や「KY活動(危険予知活動)」への適応も重要でした。最初は少し照れくささもありましたが、これらが自分と仲間の命を守るための不可欠な儀式だと理解してからは、誰よりも大きな声で安全確認を行うようになりました。こうした安全に対する真摯な姿勢と、日々の技術研鑽が評価され、技能実習生としての期間を終えた後も、即戦力の特定技能外国人として日本の建設業界で活躍の場を広げることができています。現在では、新しく入ってきた後輩の実習生に対し、技術だけでなく日本の現場でのマナーや安全意識を指導する役割も担っています。

4. 長く働き続けたい職場環境とは?外国人材の視点で見る日本の建設会社の魅力

来日してから10年、技能実習生として鉄筋結束や型枠施工の基礎を学び、現在は特定技能外国人として現場の職長補佐を任されるまでになりました。スリランカから来た私たちが「この会社でずっと働きたい」と感じる瞬間は、給与の高さだけではありません。外国人材が定着し、能力を最大限に発揮できる日本の建設会社には、共通した魅力的な職場環境があります。

まず最も重要な要素は、明確なキャリアパスと資格取得への手厚いサポートです。
来日当初は言葉の壁もあり、指示された作業をこなすだけで精一杯でした。しかし、長く勤めている会社の多くは、日本語学習の支援だけでなく、玉掛け技能講習や足場の組立て等作業主任者といった専門資格の取得を積極的に後押ししてくれます。特に技能実習から特定技能1号、そして熟練した技能が求められる特定技能2号への移行を会社がリードしてくれることは、私たちにとって日本での将来設計を描くための大きな希望となります。「外国人だから単純作業だけ」と決めつけず、技術者として対等に育てようとしてくれる姿勢こそが、会社への深い信頼と帰属意識を生み出します。

次に、現場でのフラットなコミュニケーションと安全に対する意識の高さも大きな魅力です。
日本の建設現場における「安全第一」の文化は世界トップクラスです。毎朝のKY(危険予知)活動や指差呼称は、最初は厳しすぎると感じることもありましたが、それが自分たちの命を守るための愛情であると理解できた時、現場への安心感は揺るぎないものになります。また、休憩時間に日本人社員が文化の違いに興味を持って話しかけてくれたり、母国の正月を祝ってくれたりするような、心理的な安全性が確保されている職場では離職率が圧倒的に低くなります。仕事上の厳しさと、休憩時の温かい人間関係のメリハリが、外国人労働者の孤独感を解消し、チームワークを強固なものにします。

最後に、公正な評価制度の存在です。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入が進み、私たちの就業履歴や保有資格が可視化されるようになったことは大きな変化です。国籍に関係なく、スキルと経験に基づいて正当に評価され、それが処遇に反映される環境は、モチベーション維持に不可欠です。

私たちスリランカ人は、家族を大切にし、真面目に働くことを美徳とする文化を持っています。技術力向上への渇望と、仲間と共に安全に仕事を成し遂げたいという思いに応えてくれる日本の建設会社は、単なる出稼ぎ先ではなく、第二の故郷における「成長の場」として、多くの外国人材から選ばれ続けるでしょう。

5. 特定技能でさらなる高みへ、これから来日する後輩たちと企業へ伝えたいこと

技能実習生として来日し、鉄筋や型枠の基礎を学んだ日々を経て、現在は特定技能外国人として現場の最前線に立っています。在留資格が「特定技能」に変わったことは、単に滞在期間が延びただけではありません。それは、日本の建設現場で「プロフェッショナル」として認められ、より責任ある役割を担うチャンスを得たことを意味します。

私の目標は、熟練した技能が求められる特定技能2号を取得し、将来的には現場監督として活躍することです。かつては指示を待つ側でしたが、今は図面を読み、日本人の職長と打ち合わせを行い、新しく入ってきた技能実習生たちに指示を出す立場になりました。建設キャリアアップシステム(CCUS)による能力評価も、日々のモチベーション向上に繋がっています。技術を磨けば正当に評価される環境は、私たち外国人材にとって大きな希望であり、長く日本で働きたいと願う理由になります。

これから日本を目指すスリランカの後輩たちに最も伝えたいのは、「日本語力」と「主体性」の重要性です。建設現場では、安全確認の声掛け一つが命に関わります。日本語能力試験(JLPT)のN4レベルに合格するだけでなく、現場特有の専門用語や、「あうんの呼吸」のような日本独特のチームワークを学ぶ意欲を持ってください。最初は日本の冬の寒さや夏の酷暑、厳しい指導に心が折れそうになるかもしれません。しかし、日本の建設技術や施工管理のノウハウは世界最高峰です。ここで技術を習得することは、母国スリランカに帰った時、あるいは世界中のどこへ行っても通用する一生の財産になります。

そして、私たちを受け入れてくれる日本の建設企業の皆様へ、現場の一員としてお願いがあります。私たち外国人を、単なる人手不足を補う一時的な「労働力」としてではなく、共に会社を成長させる長期的な「パートナー」として見てください。言葉の壁や文化の違いで誤解が生じることもありますが、粘り強く対話し、資格取得や技術向上の機会を与えていただければ、私たちは期待以上の成果と忠誠心で応えます。日本人社員と同じ目線での評価制度やキャリアパスの提示があれば、優秀な人材は必ず定着します。

スリランカと日本、遠く離れた国同士ですが、「良いものを作りたい」という職人の魂に国境はありません。特定技能という枠組みを通じて、互いに尊重し合い、日本のインフラ整備や街づくりに貢献できることを誇りに思います。次の10年も、ヘルメットと安全帯を身に着け、さらなる高みを目指して走り続けます。